知らない相続人がいたときの遺産相続

Q

私は、父、母、私の3人家族です。先日父が亡くなり、相続手続きの中で、父に前妻との間の子が1人いることを初めて知りました。父の介護は私と母で全て行い、前妻の子とは何十年も音信不通です。それでも、前妻との子は相続人になるのでしょうか?現在母と私が住む家も、父名義ですが、遺産として分けなければならないのですか?

A 

1 前妻の子が相続人になるか

日本の民法では、亡くなった方の子どもは、第一順位の相続人となります。そのため、たとえ長年連絡を取っていなかったとしても、あるいはご家族がその存在を認識していなかったとしても、戸籍上の親子関係が確認される限り、お父様の前妻の子も第一順位の相続人となります。

2 相続放棄をしてもらえないか

もっとも、ご相談者とお母様からすれば、長年音信不通であった前妻の子には、相続放棄してもらいたいというお気持ちもあるかと思います。

そのような場合は、前妻の子に対して、ご事情をお伝えして、相続放棄をしてもらえないかというお手紙を書くことも考えられます。

その結果、前妻の子が相続放棄手続を行い、相続人でなくなる場合もあります。

ただし、前妻の子が相続放棄をするか否かは、前妻の子の自由意思なので、強制することはできません。

また、民法上の相続放棄の申述は家庭裁判所に対してしなければならず、自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内という期間制限もあるので、注意しましょう。

3 前妻の子との遺産分割協議

他方、前妻の子が相続放棄をしないという意思表示をされた場合には、遺産分割協議が必要となり、前妻の子を含めた相続人全員の合意が必要となります。

⑴ 法定相続分

今回のケースでの法定相続分は以下の通りです。

  • 配偶者であるお母様:遺産全体の1/2

  • 子(ご相談者様と前妻の子):併せて遺産全体の1/2

子が複数いる場合、その1/2を子の人数で均等に分割します。そのため、ご相談者様と前妻の子のそれぞれの法定相続分は、遺産全体の1/4(1/2×1/2)ずつとなります。

⑵ 寄与分

なお、お父様の介護をご相談者様とお母様が担ってこられた点について、このような貢献を法的に評価する制度として「寄与分(きよぶん)」というものがあります。これは、相続人の中に、被相続人の財産の維持または増加に「特別の寄与」をした方がいる場合に、その貢献分を遺産総額から先に取得できるという制度です。

「特別の寄与」と認められるには、その貢献が通常の扶養義務の範囲を超えるものである必要があります。例えば、被相続人の事業に無償で従事し、多大な利益をもたらした、あるいは重度の要介護状態の被相続人に対し、本来なら専門の介護士に支払うべき費用を大幅に節約するほどの献身的な介護を長期間にわたって行った、といったケースが該当し得ます。具体的な介護内容、期間、被相続人の状態、それによって浮いた費用などを客観的な資料(介護記録、診断書、費用明細など)で立証する必要があります。寄与分が認められれば、その分を控除した後の遺産を、各相続人の法定相続分で分割することになります。寄与分の主張は、他の相続人との協議で合意に至らない場合、家庭裁判所の遺産分割調停審判で判断を求めることになります。

⑶ 自宅不動産について

最後に、現在お住まいのご自宅についても、お父様名義である場合には、遺産分割の対象となります。主な分割方法としては以下の三つが考えられます。

  1. 代償分割(だいしょうぶんかつ)
    ご自宅をお母様、あるいはお母様とご相談者様の共有名義で相続し、その代わりに、ご兄弟に対してご自身の相続分に相当する金銭(代償金)を支払う方法です。この方法であれば、ご自宅に住み続けることが可能です。

  2. 換価分割(かんかぶんかつ)
    ご自宅を売却して現金に換え、その売却代金を法定相続分に従って各相続人に分配する方法です。代償金を支払うだけの資金がない場合や、相続人全員が売却に同意した場合に選択されます。

  3. 共有
    ご自宅を相続人全員の共有名義にする方法です。しかし、将来的な売却やリフォームなどの際に全員の合意が必要となり、トラブルの原因となることが多いため、一般的には推奨されません。

4 今後の対応

これらの点を踏まえ、まずは、戸籍をたどってご兄弟の現在の連絡先を特定し、遺産分割協議を始める必要があります。ご本人同士での交渉が難しい場合は、弁護士にご相談ください。弁護士は、代理人として冷静に交渉を進め、法的な観点から最適な解決策を提案し、合意形成をサポートすることができます。また、交渉がまとまらない場合の家庭裁判所での調停や審判手続きも代理します。

5 事前の対策でできたこと

お父様がご生前お元気なうちにできた対策としては、遺言書の作成があります。もし、ご相談者とご相談者のお母様へお父様の遺産を相続させる遺言を作成していれば、前妻の子は遺留分の範囲で権利主張できることになります。本件の場合の前妻の子の遺留分は1/8(1/2(総体的遺留分) × 1/4(法定相続分) = 1/8)なので、法定相続分(1/4)よりは法定の取得割合が減っていたことになります。

弁護士法人ウィンクルム法律事務所では、相続に関する相談を承っております(相談料11,000円(税込)/1時間ごと)。複雑な状況であっても、一つずつ丁寧に解決へと導くお手伝いをさせていただきますので、ぜひお気軽にお問い合わせください。

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