特別受益について教えてください。

Q. 私は、12年前に独立して事業を始めました。私を応援していた父は、開業資金として、事業開始時に父名義の銀行預金から金1000万円を贈与してくれました。 このたび父が死亡し、相続が発生しましたが、死亡時の遺産として、銀行預金800万円が残りました。相続人は長男である私と二男である弟の2人です(母は既に他界しています)。 弟からは、12年前の贈与について、「特別受益だ」と主張されています。この場合、遺産分割はどうなるのでしょうか。

A.

1 特別受益とは何ですか?

亡くなった方(被相続人)から、生前に特定の相続人だけが受けた特別な利益がある場合、その利益のことを「特別受益」といいます。相続人間で不公平が生じないように、その特別な利益(特別受益)を相続財産の総額に一度加算して(これを「持ち戻し」といいます)、各相続人の具体的な相続分を計算し、特別受益を受けた相続人については、その相続分から特別受益の額を差し引くことになります(民法903条1項)。

2 私が父から贈与された開業資金のお金は、特別受益に該当しますか?

民法903条1項では、被相続人から①遺贈を受けた場合、②婚姻若しくは養子縁組のため、又は③生計の資本として贈与を受けた場合に特別受益が認められると定められています。 ただし、生前の贈与であっても、お小遣い程度の少額な援助や、生活費・学費等の扶養義務の範囲内と評価される支援については、通常、特別受益には該当しません。

今回のケースでは、お父様があなたの事業の開業資金として贈与した1000万円は、扶養義務の範囲を超えるものであり、「③生計の資本として贈与を受けた場合」に該当すると考えられます。したがって、この開業資金1000万円の贈与は特別受益と認められる可能性が高いです。

3 実際にどのような分割方法になりますか?

特別受益がある場合、その額を相続財産に持ち戻して、各相続人の相続分を計算します。

  1. みなし相続財産の計算: お父様の遺産(預金)800万円に、あなたが受けた特別受益1000万円を持ち戻します。 800万円(相続財産)+ 1000万円(特別受益)= 1800万円(みなし相続財産)

  2. 法定相続分の計算: 相続人はお子さんであるあなた(長男)と弟さん(二男)の2人なので、法定相続分はそれぞれ1/2です。 1800万円 × 1/2 = 900万円(各自の法定相続分)

  3. 具体的相続分の計算

    • あなた(長男)の具体的相続分: 900万円(法定相続分)- 1000万円(特別受益)= -100万円 この場合、あなたの具体的相続分は0円となります。特別受益の額が法定相続分を超過していますが、法律上、その超過分(100万円)を他の相続人に支払う義務はありません。これは、あくまで贈与(特別受益)であり、返済義務のある貸付金とは異なるためです。

    • 弟さん(二男)の具体的相続分: 900万円(法定相続分)- 0円(特別受益なし)= 900万円

  4. 遺産の分配: 現実の相続財産は800万円です。 弟さんの具体的相続分は900万円ですが、現実の財産は800万円しかありません。この場合、弟さんが相続できるのは、現存する相続財産である800万円全額となります。 結果として、あなたが取得する遺産は0円、弟さんが800万円を相続することになります。

4 何か対策はなかったのでしょうか。

特別受益に該当する贈与等があったとしても、贈与したお父様自身が、遺言などによって「持ち戻しを免除する」という意思表示をしていた場合には、その意思に従い、特別受益を持ち戻さずに遺産分割を行うことができます(民法903条3項)。これは、被相続人が特定の相続人に多くの財産を残したいという意思を尊重するためです。

したがって、もしお父様があなたに対して生前に「開業資金1000万円の贈与については、遺産分割の際に持ち戻さなくてよい」という意思表示(持ち戻し免除の意思表示)をしていれば、その1000万円をみなし相続財産に加算する必要はありませんでした。その場合、相続財産である銀行預金800万円について、あなたと弟さんがそれぞれ法定相続分である400万円ずつを相続できたと考えられます。

なお、遺産分割における特別受益には、贈与の時期に関する期間制限はありません。そのため、今回の12年前の贈与も考慮されます。 これと混同しやすいものとして遺留分侵害額請求がありますが、遺留分を算定する際の基礎財産に加算される相続人への贈与は、原則として相続開始前の10年間になされたものに限られます(ただし、当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知ってなされた贈与等は、10年より前のものでも対象となります)。この点は遺産分割における特別受益の扱いと異なりますので、ご注意ください。

 

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