【フィクションと法律】物わかりのよい若侍(大河ドラマ『麒麟がくる』第1話「光秀、西へ」より)

『空想科学読本』という変わった書籍がある。そのシリーズは既に20を超え、柳田理科男という変わり者がウルトラマンや仮面ライダーといったいわゆる特撮モノを中心に「物理学」や「化学」に基づく“分析”をしている。
 
そして、『空想科学読本』の姉妹本に『空想法律読本』というシリーズもある。こちらも特撮モノを中心に「法律」に基づく“分析”がされている。
 
これら空想科学シリーズ(『空想歴史読本』もある。)の姿勢、フィクションをリアリティで分析するという「誠実さ」には何とも言えない滑稽さがある。
 
そこで、私も『空想法律読本』にならって、無粋にも!フィクションの世界を現行の日本法に従い“分析”してみようと思う。
 
 
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今回のブログでは、今月(2020年1月19日)から始まった大河ドラマ『麒麟がくる』のワンシーンを切り取りたい。
主人公は「敵は本能寺にあり!」で有名な明智光秀である。
 
 
明智光秀(演・長谷川博己)は、村を襲う野盗が「てっぽう」という強力な武器を使っていることに驚き、美濃国守護代である齋藤道三(演・本木雅弘)に「てっぽう」を買うため堺に旅立つことの許可を願い出る。
斎藤道三は、明智光秀に大金を授け、堺へ「てっぽう」を買うことを許した。
 
明智光秀は、懐に大金を携え、堺の商人のもとにたどり着く。
「てっぽう」を売ってくれるよう商人に頼むが、仕入れに何か月もかかると言われ売ってくれる気配がない。
 
 
そんな中、明智光秀は松永久秀(演・吉田剛太郎)と出会う。
 
松永久秀は、俺が商人と交渉して鉄砲を買ってやると豪語するも、まずは酒を飲もうと明智光秀と酒を酌み交わす。
政論を交わしながら酒を飲んでいると、明智光秀はみるみるうちに酔っていき、ついにはすっかり眠ってしまう。
 
翌朝、明智光秀が目を覚ますと、松永久秀の姿はなく、「てっぽう」を買うため預かった大金も無い!
 
 
 
しかし、よくよく見ると大金の代わりに「てっぽう」があるではないか!
きっと松永久秀が自分の代わりに商人と交渉をして、「てっぽう」を買ってくれたのであろう。
 
それに気づいた明智光秀は、小躍りしながら喜ぶのである――
 
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さて、実に無粋ではあるが、松永久秀の行いを今の日本法に従って見てみよう。
 
おそらく松永久秀は、鉄砲を売ってもらえない明智光秀を思って、酔ったスキに大金を預かり商人と交渉して鉄砲を買ったのであろう。
 
なるほど、一見すると、将来有望な若侍のため一肌脱いでやり「サプライズ」を仕掛けたといったところであろうか。
 
 
だが、今一度考えてみよう。
 
 
松永久秀は、明智光秀を泥酔するまで飲ませたうえで、大金を取っているのである。
 
必ずしも、法律はこれをよしとしない。
 
(昏酔強盗)
刑法第239条 「人を昏酔させてその財物を盗取した者は、強盗として論ずる。」
 
不法領得の意思の問題は残るが、松永久秀の行った行為は昏酔強盗に当たる可能性が高い。
場合によっては、明智光秀に対して民事上の不法行為責任を負う可能性もある。
 
 
もし明智光秀がこのように「物わかりのよい若侍」でなければ、松永久秀との間で紛争になっていたかもしれない。
 
おつりはどうした?
 
本当に商人にお代を払ったのか?商人に「てっぽう」を返せと言われないか?
 
この長い筒はそもそも「てっぽう」なのか――
 
二日酔いの頭の中で様々な疑念が渦巻くのではないだろうか?
頭痛が治まった頃には法律事務所に足を運んでいるかもしれない。
 
 
 
松永久秀は“厚意”で行ったのであろう。
明智光秀は飛び跳ねるほど喜んでいた。
 
だが、酒を酌み交わした相手が明智光秀のような物わかりのよい若侍でもない限り、私達は、松永久秀のマネをしない方がよさそうだ。
 
 
弁護士 安井